大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

和歌山地方裁判所 昭和28年(ワ)328号 判決

原告 淡路やい

被告 国

一、主  文

原告の請求は之を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は、被告は原告に対し戦没者である和歌山県海草郡塩津村九五八番地東野保の遺族年金五千円を支給せよ、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求原因として、原告と訴外戦没者東野保とは戸籍上は姉弟となつているが実際は同人は原告の実子である。即ち原告は旧民法当時東野家の法定の推定家督相続人であつた為、訴外淡路安吉と事実上の婚姻をしたが婚姻届を出し得ない状況にあつたところ、明治四十一年十月十九日前記保出生し、男の子を私生子として届出るに忍びず、同人を原告の父東野兼二郎同母あいの実子として届出ることにより同人は嫡出子としての身分を取得するしその結果同人が東野家の推定家督相続人となり一方原告も又淡路安吉と法律上の婚姻をすることも可能となる為右両者の便宜の為同保を原告の父母の二男として虚偽の届出をしたものである。而して同保は昭和十八年応召出征したが、昭和二十年五月十七日ビルマ国パプン北方二十哩に於て戦死したものである。従つて原告は戦没者東野保の母であるから遺族年金五千円の支給を受ける資格を有しているから右年金の支給を受ける為本訴請求に及んだと述べた(立証省略)。

被告指定代理人は本案前の答弁として、原告の訴を却下する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、その理由として、遺族年金の支給を受けるためには厚生大臣に対し遺族年金請求書を提出し、その受給資格の有無につき裁定を受けなければならないのに、原告は右手続を経ることなく本訴を提起したもので、本件は裁判所に対し行政庁に代り自ら処分したと同様な効果を生ずる判決を求めることゝなり司法権の行政権への侵犯となり三権分立の原則に反するから許さるべきでない。よつて本訴は不適法であると述べ、更に本案の答弁として原告の請求を棄却するとの判決を求め、原告の主張事実中、原告と東野保が戸籍上姉弟であること、同東野保が原告主張のとおり応召しその主張の日、場所に於て戦死したことは認めるがその余の事実はいづれも不知、よつて原告の請求は理由がないと述べた。

三、理  由

行政処分の取消変更を求むる所謂抗告訴訟は行政機関の行政処分を前提としこの前提条件を欠除する訴の提起は不適法であつてその却下せらるべきは勿論であるが原告の本訴請求は斯ような行政処分の取消又は変更を求むるものではなく原告は亡東野保の遺族として遺族年金請求権を有すると主張し被告に対して給付の訴を提起しているので訴の却下を求むる被告の抗弁は之を採らず進んで本案につき原告の本訴請求権の有無につき案ずるに戦傷病者戦没者遺族等援護法は遺族年金を受ける権利の裁定はその援護を受けようとする者の請求に基いて厚生大臣が之を行うと規定し更に遺族年金を受ける権利は七年間之を行わないときは時効によつて消滅する旨を定めているので右年金を受ける権利は戦没者との身分関係その他所定の資格要件を具備する者は同法上当然遺族年金請求権を取得するような観もあるが同法が年金を受ける権利の裁定を厚生大臣の権限となした趣旨は右年金を受ける権利の存否或は正否について厚生大臣の行政処分を以て確定せんとしているのであつてこの厚生大臣の確認行為を経て始めて右年金を受ける権利は法律上その効果を完成確定し具体的な遺族年金請求権を生ずるものと解するを相当とする換言すれば同法所定の受給資格要件を具備する者は厚生大臣の裁定を受けることによりその抽象的な年金受給の権利は具体的に確定するのであつて右裁定手続を経由することなくして具体的な年金受給の権利を取得することはあり得ない。

而して原告が戦傷病者戦没者遺族等援護法に基いて厚生大臣に対しその裁定請求の手続を履践していないことは主張の全趣旨に徴し当事者間に争いなく従つて原告が被告に対し亡東野保の遺族年金の給付を求むる権利を有することは肯認し難く原告の本訴請求はこの点に於て已に失当であつて爾余の判断を待つまでもなく之を棄却するを相当とする。

仍て民事訴訟法第八十九条に則り主文の通り判決する。

(裁判官 宇都宮綱久)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!